アーユルヴェーダ   

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「アーユルヴェーダ医学」のバイブル

日本アーユルヴェーダ学会理事長
富山医科薬科大学名誉教授 

田澤賢次

私の手元にある『ススルタ大医典』は、日本医史学会によって発刊された第I、II、III巻であるが、昭和46年に第I巻が、47年に第II巻が、48年に第III巻が一年毎に発刊の運びとなっている。伊東弥恵治と鈴木正夫の両氏の力作である。序文には当時の日本医史学会会長小川鼎三氏の文が寄せられている。

この『ススルタ大医典』を購入できたのは私にとって大変に幸運であったと今思っているが、今回新しくこの三巻を底本として再構成し、『アーユルヴェーダ≪ススルタ≫大医典』として「人間と歴史社」より発刊する運びとなったことにアーユルヴェーダ医学を学ぶものとして、また「日本アーユルヴェーダ学会」を代表してお祝い申し上げると共にその発刊までのご苦労にお礼申し上げたい。

本書はインドのビスハグラトナ博士とその同志によって、サンスクリット語から「ススルタ・サムヒター」は英訳され、1907年から約10年がかりでカルカッタにおいて刊行された英文になる三巻を邦訳したものである。

日本語に訳すために当時千葉大学眼科学教室の教授であった伊東弥恵治先生によって計画され、第二次大戦下の苛酷な事情の中で進められ、昭和20年5月にその粗訳が完成したとある。この訳稿を鈴木正夫先生が受け継いで完成したものであることが記されている。

インドアーユルヴェーダ医学は中国を経て、日本にもその一部が伝わり、古代のギリシャ、中世のアラビアを経て西進し、西洋の医学にもとりこまれた。したがって、種々の薬物がインド起源であり、外鼻の形成手術のごときは「ススルタ・サムヒター」に影響を受けているというのが定説である。

私の専門とする肛門外科に関する「クシャーラ・スートラ」はアルカリの糸を用いるインドアーユルヴェーダ医学であるが、その治療概念は現代のDrug Delivery Systemに準じるすばらしいものであり、機能温存を目指した近代治療の原型に他ならない。

多大な困難を乗り越えて邦訳『ススルタ大医典』は完成したのであり、今日アーユルヴェーダ医学を学ぶ私達にとってバイブルといってよい本である。これからアーユルヴェーダ医学を学ぶ人にとっても、その本流に触れるために、本書が裨益するところ多大であることを信じている。