アーユルヴェーダ   

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アーユルヴェーダ

刊行にあたって

 

いうまでもなく、現代文明は「実証科学」をもとに、「数量化」することによって発展してきました。その考え方は、自然を客体化し、征服する対象と見なすデカルト以来の近代合理主義に基づく成果によって、我々は莫大な利益と恩恵を得てきました。

しかしそれは「石油」という優れたエネルギーと徹底した「人間性(味)の排除」によってもたらされた結果とみることができます。延命とQOLの向上を実現する一方で、我々はいま自然の循環から切り離された社会、脳だけが生きているという実感のない奇妙な世界(仮想現実)に生きています。 

かつて、先人は「病気」になるのは「人間」であると考えました。「人間」は自然の一部であり、環境(いわゆる土・水・火・風・空)によって「疾病」が発生するのだと考えました。こうした考え方に疑問を投げかけたのが近代医学の先達であったブライト(1789〜1858)とウィルヒョウ(1821〜1902)でした。

1827年、リチャード・ブライトは、蛋白尿、浮腫、腎臓の病理所見という3つの症状を有する患者を報告し、「人間」が症状を有するのではなく「病気」が症状を有するということを報告しました。

次いで1858年、ルドルフ・ウィルヒョウは「すべての細胞は細胞からOmnis cellula a cellula」という「細胞病理学」を発表し、人間の細胞は人間の全体から独立した自律的な世界を有しているのであり、病気は「人間」が罹るのではなく、この「細胞」が罹ることを明らかにしました。

このブライトの「診断学」とウィルヒョウの「病理学」を経て、近代医学は初めて「人間」から独立した「病気」の概念を手にしたのでした。 

しかし、ここにきて我々は新たな課題に直面しています。一つは、病気は「細胞」が罹るのではなく「遺伝子」が罹るという事実が次第に明らかになってきました。もう一つは、「成人病」を初めとする多くの「生活習慣病」は人間の生活そのものに由来するものであり、細胞の病気を癒すという手法ではもはや対応できないという事態を迎えています。 

確かに近代医学は多くの疾患において、その克服に成功してきました。しかし、長寿社会が実現された今日、近代医学の主要な使命は20世紀で終わりを告げようとしています。同時にそれは「臓器別」「疾患別」医学の終焉でもあります。

一方で、「ターミナル・ケア」「スピリチュアル・ケア」「統合医学」「補完代替医療」が注目される今日、我々はもう一度、「人間が病気に罹る」「人間を全体として捉える」―という、かつての先人たちの知恵を見直す必要性に迫られています。

「生命への感受性」にあふれた「アーユルヴェーダ」の知恵は、医学のみならずこれからの「人類生存」の新たな地平を拓く力になると考えます。 

人間と歴史社代表取締役 佐々木久夫 
編集・制作総指揮 妹尾浩也