目は快適でなくてはいけない
医療法人社団済安堂 井上眼科病院院長 若倉雅登著 / 四六判上製 269頁
税込2100円 / ISBN4-89007-156-3 C3047〔ご注文はこちら〕〔出版案内表紙へ戻る〕
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「私は本書で、自身の実感した眼科診療現場にある問題点、矛盾点あるいは変化の兆しを、患者さん、医師、病院それぞれの立場から訴えてみたいと考えました。(中略)私が臨床現場で感じた諸問題を、同僚の医師たちから「そこまで書いていいの」と言われそうな問題まで含めて、皆さんの前に晒してみようと思ったのです。(中略) その上で、むしろ皆さんと一緒に考えてもらったほうがいいと思ったのが、本書を上梓することになったきっかけです。そのことが、医師、医療、病院には多くの悩みがあり未熟さもあり、そしてまた改善してゆくべき点もあることを実感していただけると考えたからです。
本書で触れた問題の多くは、一朝一夕に解決しないものがずいぶん含まれていると思います。しかし、目の健康について、また日本の医療の現実について、本書を通じて真剣に考えていただいた読者の方々には、おそらくたとえば国が「医療費抑制政策」を発表しても、「医師過剰時代」などという言葉が新聞に踊っても、もはやそれを鵜呑みにすることはしなくなるでしょう。医療を受ける人々自身が考え、発言しなければ、何も変わらないと思うのです。」あとがき より
目は快適でなくてはいけない もくじ
はじめに
第1章 目は快適でなくてはいけない
「目の障害」は社会からも医療からも軽視されている
「障害」を受け入れる疾病観を
数値至上主義の医学
同じ0・1でも「視力の質」は違う
機能の障害―「視野」「焦点調節」
「地下鉄サリン事件」の教訓
「日常社会生活」の視点が必要目は快適でなくてはいけない
多彩な目の不定愁訴
「不快さ」を理解しない医師
目が快適でない
(1)眼瞼痙攣
(2)自分だけの特異な訴え
●その人特有の知覚●ムーアの稲妻―「光視症」
(3)症候性眼精疲労
●患者の「不自由さ」に思いを致す
(4)身体表現性障害
●治すべき「異常」がない●トータルとして病んでいる
患者さんの目だけでなく、身体や心の状態、生活の背景を把握する必要があります。そしてその症状を出現させている原因を探求するための知識や見識が必要です。それよりも何よりも、患者さんへの思いやりこそが、問題解決するために医師が呻吟し、そして患者さんに晴れて解決への順路を示す原動力になるに違いありません。
(5)甲状腺眼症
●バセドウ病●甲状腺眼症第2章 眼科の周辺
「選択メニュー」のない日本の医療
眼科の周辺
(1)外傷
●「頭頚部外傷後遺症」●「検出できない異常」
「未知」のものを謎として追究しない態度は、科学者として決して賢くない、謙虚さを欠いた態度です。もし、面倒だから紛争や裁判に関わりたくないために、患者さんの自覚症状を退けるような判断をするのであれば、その医師はその時点で患者さんの味方ではなくなってしまいます。
(2)緑内障
●「 17人に1人」●「正常眼圧緑内障」●「治療しない」という選択肢
(3)目に表現される全身病
●「全身」から「目」だけが抜け落ちている
(4)レーベル病
●「経験医学」の重要性●「レーベル病」
(5)原田病
「遺伝疾患」にどう向き合うか
「赤緑色覚異常」
「網膜色素変性」
「レーベル病」
「知る権利」「知りたくない権利」
治療法が確立していない疾患にどう向き合うか
「この病気は治せません」
近代「抗○○医学」の勝利と新たな課題
次の一歩を踏み出すチャンスを失わないために
「アフターケア」の整備が急務第3章 「病気」との付き合い方
「病気」と「治療」にはリスクがつきもの
「医学」は万能ではない
「白内障」手術後の不適応
白内障手術の「合併症」
「インフォームド・コンセント」―撤回できる「同意」
「セカンドオピニオン」―「聞く権利」
現代病識観―病識のある患者は医師もおろそかにしない
「ロービジョン(低視力)」のケア
「子どもは残酷ですから」
「ロービジョン」のケア
不合理な「ロービジョン者」の扱い
「仕事の能率が落ちると会社にいづらくなるのです」
法的に障害者と認められない人たちは健常者と同じ仕事量を要求されるでしょうから、法律的ロービジョンの人にもまして辛い思いをすることになります。(中略) 私は視覚障害の程度は視力や視野の値ではなく、社会生活における「支障の程度」で測るべきだと思っています。(中略) 私たちが障害者に対しても平等で、本当に優しい社会を作ろうと真剣に思えば、支障がある人の社会的不自由度を測る指標を作ること自体は、それほど難しい話ではないと思います。
目の相談室
「病気」でなく「人」を対象とした医療の実現
私はこれまで「ベーチェット病」などのいわゆる「難病」や網膜や視神経に生ずる難治な病気を持つ多くの患者さんを診療してきた経験から、視力回復が困難な症例に対して、現代医学の限界を認めることは、その患者さんを見離すこととは全く異なることであると考えています。むしろ、互いに限界を認め合って初めて、医師対患者ではなく、人間同士としての意志疎通が始まると思っています。
「目の相談室」の目的と機能
「ナース」の役割
「視能訓練士」(ORT)の役割
「ソーシャルワーカー」の役割
医師の役割
老化と上手くつき合う
目は加齢変化に敏感
「子らへ」―「治療無用」第4章 行列のできる眼科病院
「患者様第一主義」―その徹底的実践
「お医者様と患者」
医学部「教授」の権力
「歪んだ医療」の現場―人体実験まがいの医療行列のできる眼科病院
「2時間20分」
病院診療の理想の姿
「2時間待ち、2分診療」――このような不満な状況を国民自らが体験しているのに、国や自治体が「医師過剰時代」とか「医学部の定員を削減する」、あるいは「病院の基準病床数を下げる」と言っても何も感じず、反対もしないのはとても不思議なことです。国や自治体のこれらの議論は、決して「医療の質」や「患者の要求度」に基づいているのではなく、「医療経済」にのみに基づいていることに多分気づいていないのではないかと思います。
行列ができる理由―「国民総医療」
行列ができる理由―「健康保険制度」日本独自の臨床治療共同研究
「副腎皮質ステロイド大量療法」への疑問
「日本人のためのデータ」が必要―「治療研究」を主導
日本の弱点が浮き彫りになった「臨床試験」医療における「ことば」
「あなたの心臓はボロ雑巾だ」
あいまいな表現は「誤解」を生む医師は薬師か
「先生、よい目薬をください」
「実証医学」と「対話医療」
「偽薬効果」と「相互作用」「情報公開」―理解と成熟度
「PL法」と医薬品
「副腎皮質ホルモン薬」の副作用を発見
「免責」と「責任」の境界「情報公開」と「個人情報保護」
情報の受け手に求められるもの
医師の「個人情報」第5章 病院の憂鬱
良質な医療を求めて
医療はサービス業か
保険点数は成功報酬ではない
健康保険制度の不平等
医師の判断に点数がない
「もう来院しなくてもいいですよ」という診断をすれば、商業的にいえば顧客を失うことになるのです。しかし、医師は商人ではありません。先の判断は医師としての非常に高度に専門的な判断であるにもかかわらず、診療報酬の評価はないのです。これでは、「薬浸け」「検査漬け」医療を奨励している制度だといわれても、反論できないのではないでしょうか?
積極的治療はしなくなる?
医師は有限な人的資源
カウンセリング医療
予防医療と維持医療
医師の研修に理解をおわりに
視覚障害者が受けられるサービスについて
索引
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