草刈 順 著 / A5判上製 269頁 /
品切れ重版未定 税込2100円 / ISBN4 89007-066-4 C0095 

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「著者は東京の下町を中心に明治・大正・昭和時代の小説や絵画などでゆかりの地を取り上げ、当時と現在の変化に焦点をあてて、解説している。(中略)忘れられていた東京の顔が蘇ってくる一冊だ。」
     「新美術新聞」

本書は、東京に堆積した文化の記憶を、68点の図版とともに、現代の街角から呼び起こす、Promenade Artistiqueへのいざないである。

 

 

 

一九〇〇年 続・東京ぺんてぃめんと 

 

 

渋谷川ぺんてぃめんと

生粋の都会川
水源を求めて
宇田川のほとりの人々(1)
宇田川のほとりの人々(2)
渋谷から天現寺橋まで

岸田劉生 国木田独歩 田山花袋 大岡昇平 
武久夢二 与謝野鉄幹 与謝野晶子 萩原朔太郎


岸田劉生は、一九一三年(大正2)から数年間、この代々木に住んでいた。(中略)
古い地図を見ると、宇田川の上流は代々木台地と幡ヶ谷台地の間を通り、山谷(現参宮橋)あたりで細くなって消えている。そこは甲州街道のちょっと手前である。甲州街道はこの地域で一番の高所――分水背を通っていた。つまり、降った雨水は甲州街道を境にして南北に分かれ、南側に流れた水は貯えられて地下水となり、それが宇田川の水源となっていたのだ。その水源地の中心部に『切り通し』はあったのである。

 

 

青山物語

青山、夜明け前
青山脳病院炎上
青山ヶ原炎上
鬼籍の街で
AOYAMA暮色

乃木希典 斎藤茂吉 安岡正太郎
斎藤茂太 萩原朔太郎 田中康夫


そのころ乃木坂に「乃木坂倶楽部」というアパートができた。大正時代のアパートには「倶楽部」という名のついたものが多い。それまでのアパートは、いくつかの個室があり、中央部に共同炊事場がある寄宿舎のような造りであったから、たしかにアパートというより倶楽部と呼んだ方がふさわしかったかもしれない。しかし、乃木坂倶楽部はこのようなものではなく、洋風のモダンなものだった。ここに萩原朔太郎がしばらく住んでいた。(中略) 朔太郎はここで連日惰と自棄にドップリとつかっていた。

 

 

お茶の水ろまんと灯燈

ニコライ堂の鐘がなる
丘の上のビザンチン聖堂
宣教師建築家ヴォーリズ
西村伊作の華麗なる学校ゴッコ
秋風と共に消えた自由学校

木下杢太郎 与謝野晶子 織田一磨 山下りん 
WMヴォーリズ 佐藤春夫 獅子文六


ニコライは聖堂建設地になぜ駿河台を選んだのか――、おそらくそれは、その地が台地であり、都心に近いわりに地価が安かったからだろう。大聖堂ははるかかなたからも望める丘の上に建ち、鐘の音はすべての人々の上に鳴り渡らなければならない。事実、丘の大聖堂は下町のどこからでも手にとるように見えたし、鐘の音は宮城をとび超えて日比谷公園でも聞こえた、という。また、火消屋敷跡を買上げた明治五、六年頃の駿河台は、交通の便がおそろしく悪く、誰もかえりみない、荒れはてた台地であったのだ。

 

 

私的『山手線駅風景

夜のステーション(新橋)
消える感傷的駅空間(上野)
シグナルのある線路風景(田端)
地下道が結ぶ駅(池袋)
公衆便所のある風景(新宿)
待っている駅前広場(渋谷)
雨のプラットホーム(品川)

小林清親 太宰治 佐伯祐三 芥川龍之介
室生犀星 岡本潤 松本俊介 中野重治


パリの石の街を好んで描いた佐伯が、日本に戻ってモチーフに苦労したことはよくわかる。(中略)友人の里見勝蔵(洋画家)の回想では、「佐伯は日本の風景を描くのに大いに努力した。汽車や電車を描くため田端へも幾日も通った。」と述べている。――明らかに佐伯は、日本でのモチーフ探しに疲労し、絵が描けないことに焦慮していた。では、佐伯が通った田端は、その頃、どんなであっただろうか。

 

 

下町の洞窟(グロッタ)

下町の光と影
人形町と谷崎
谷崎の妄想した東京
川の手の洞窟

長谷川時雨 谷崎潤一郎


マゾヒズムは谷崎文学の底流をなすものだが、とくに初期短編にはこの傾向があらわである。処女作『刺青』で若い刺青師が精魂こめて美少女の肌に刺りこむところは深川佐貫町の家――箱崎の向う岸である。『幇間』(一九一一年)の、美女たちに蔑すまされ揶揄われることに快感をおぼえる男の話は大川端の柳橋、『秘密』(一九一一年)の、扮装して自己を隠蔽する快楽に耽ける男の秘密の場所は蛎浜橋(浜町)のあたり、いずれも開かれた町の中の、閉ざされた洞窟世界である。

 

あとがき

 

 


MOTS-CLES:街.町.風景.景色.景観.街並み.町並み.文化.歴史.近代史.文学史.美術史.明治.大正.昭和.建築.絵画.美術.画家.作家.小説家.詩人.文学.国文学.小説.詩.短歌.渋谷.青山.御茶ノ水.社会科.国語.現代国語.教材.山手線.鉄道.山の手.下町.人形町

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